PFGパラメータ最適化

PFGパラメータ最適化の目的

DOSYスペクトルへの影響

DOSY測定で得られるのは「誤差を含む」「有限個」のデータです。
合成高分子のような試料の場合,分子量分布をもつので,拡散係数にも分布が生じます。
DOSYのデータ解析では逆ラプラス変換処理によって最終的に拡散係数分布を推定します。
しかし,単分散系の場合とは異なり多分散系の場合,与えるデータによってDOSYスペクトルに変化が見られます。

最適化へのフローチャート

当研究室の一般的なPFGパラメータの設定方法を紹介します。
サンプルは分子量 10,000~30,000程度,CDCl3中での測定を想定。最大磁場勾配強度は0.9 T/mです。
拡散時間 50 ms, PFG照射時間 2 ms, PFG強度 10m~0.7 T/m 程度を目安に測定を始めます。
まず, PFG強度10m T/mのときのシグナル強度を100%とし,0.7 T/mの時のシグナル強度を求めます。

1, 求めた強度が10 %~15 %になるように,使用するPFG強度の上限を調節します。

上限を装置の最大の出力まで上げても減衰が不十分な場合は,PFG照射時間の設定に戻ります。

2, 先の手順でシグナルの減衰が不十分な場合はPFG照射時間を長くとります。

JEOLの装置ではDuty Cycleが自動で計算されます。プローブとPFGアンプ,測定温度において
Duty Cycleの上限が決まっていますので,カタログをチェックしておきます。
もしPFG照射時間が長すぎてDuty Cycleの範囲を超えてしまうとプローブを痛める原因となってしまいます。
PFG照射時間を変更したら1の手順に戻り,PFG強度を再度調整します。

3, 手順1と2を繰り返しても調整できなかった場合は拡散時間を調整します。

エコー減衰が不十分な場合は拡散時間を長くとります。
しかし,高分子は緩和時間も短いため必要以上に多くとることは好ましくありません。
また長すぎる緩和時間は対流の影響も受けやすくなるため注意が必要です。
逆にPFG照射時間,PFG強度に余裕があれば拡散時間を短くとることが可能です。
拡散時間を短くする場合には手順2で説明したDuty Cycleも変わるため注意が必要です。

PFGパラメータだけでは調整できない場合

測定温度の見直し

温度を上げると拡散係数も大きくなるので,分子量の大きいサンプルや高粘度のサンプルに有効です。

サンプル濃度の見直し

サンプル溶液の粘度が高い場合には,サンプルの濃度を低くすることで測定可能になる場合もあります。
しかし,サンプル濃度を低くすることはS/Nの低下に直結するため,S/Nが不十分な場合,積算回数を多く取る必要があります。

測定の目安(合成高分子の場合)

測定温度

低粘度溶媒(e.g. CDCl3) : 35℃以下
高粘度溶媒(e.g. DMSO-d6) : 70℃以下

拡散時間

100 ms以下

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